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マイクロファイナンス情報2008年5月3日 16:31

ファイナンスの基礎-割引現在価値

ファイナンスの重要なコンセプトに割引現在価値というものがあります。たとえば、次のことを考えてみましょう。現在あなたの手元にある100万円と1年後の100万円は同じ価値をもっているでしょうか?直感的に同じ価値ではないと感じると思います。現在手もとにある100万円はすぐにそして確実に使えますが、将来の100万円は現在すぐにそして確実に使うことはできません。つまり将来の不確実な100万円よりも現在の確実な100万円のほうが価値は高いはずなのです。

 

それでは、将来の100万円が現在どれくらいの価値をもっているかをどのように計算したらいいでしょうか?次の事例を通して検討しましょう。

 

今、1年満期・金利1%の無リスク債券に100万円を投資したと考えましょう。あなたは1年後に101万円をえられるはずです。

 

次に、リスクのあるエマージングマーケットの1年満期・金利10%の債券に投資したとしましょう。あなたは不確実ではありますが1年後に110万円をえられるはずです。

 

上の2つの事例から何が分かるでしょうか?リスクの高い債券のほうが見返りとしてのリターンである金利が高いことが分かります。そして、最初の例では市場は現在の100万円と将来の101万円が等価であるような金利を提示しているということがいえます。それはつまり、将来の101万円を1%で割り戻せば100万円になるということであり、この過程を経て算出された100万円のことを将来の101万円の現在割引価値と呼びます。そして、ここで割戻しに利用した1%のことを割引率とかディスカウントファクターと呼んでいます。

 

同様のことはもちろん不確実なエマージングマーケットへの投資にもいえます。

 

ここで重要なことは、不確実性の高い投資ほど割引率が高いということです。リスクの高いキャッシュフローほど高い割引率で割り戻さなければいけないということです。ですから、不確実性の高い投資を行った際の将来想定されるキャッシュフローを無リスク金利で割り戻してしまったら、割引現在価値を過大評価してしまうことになり、投資判断を誤らせてしまうことでしょう。投資の際は、不確実性の高さにフィットした割引率を設定することがとても重要なのです。

 

参考文献

リチャード・ブリリー、スチュワート・マイヤーズ他「コーポレートファイナンス 第8版」日経BP社(2007)

 

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マイクロファイナンス情報2008年5月3日 16:25

ファイナンスの基礎-リスクとリターンについて

ファイナンスが教えてくれる重要な知見の一つに、より高いリスクをとればより高いリターンを得られるというものがあります。逆にいえば、より高いリターンを得るためにはより高いリスクをとらなければならない、ということになります。これは私たちの経験上、受け入れやすい事柄でしょう。

 

この基本的なリスクとリターンの関係をもう少し深く考えてみましょう。次のような事例を想定してみます。あなたは投資家です。これから100万円を投資します。投資対象は2つあり、ひとつは1年後に確実に110万円になって戻ってくる国債で、もうひとつは、55%の確率で200万円、45%の確率で0円になって戻ってくるベンチャー企業への投資です。あなたはどちらの投資対象を選ぶでしょうか?

 

こうした選択意思決定の基準のひとつは期待値での比較です。国債の期待値はもちろん110万円です。ベンチャー投資の期待値も同じく110万円です(200万円×55%+0円×45%)。国債もベンチャー投資も期待値が同じですから、期待値だけで意思決定をする人はどちらの投資も選んでもいいと考えるはずです。

 

しかし、直感的に考えて何かおかしい感じがします。なぜなら、不確実な110万円よりも確実な110万円を選ぶほうが合理的に感じられるからです。

 

ただ、世の中には次のように考える人もいるでしょう。「確かに国債は確実に110万円をもらえるが、ベンチャー投資では200万円を得られるチャンスがある。だからベンチャー投資を選ぶ。」。この人の考え方に従えば、国債よりもベンチャー投資のほうががいいという意思決定になります。

 

それでは一体誰の意思決定が正しいのでしょうか?

 

実は、リスクに対する考え方によって答えは変わってくるのです。つまりリターンの期待値比較だけでは答えは出ないということでもあります。

 

ここで、リスクとは不確実性のことと考えましょう(もっと細かく考えると、ある確率分布に従う不確実性と確率分布が分からない不確実性があります。)。ファイナンスでは、リスクとは期待値からのばらつきと定義します。この意味でのリスクを分散とかボラティリティといったりします。ちなみにファイナンスでいうリスクは一般的な意味とは違い、マイナス方向だけではなくプラス方向のばらつきも含んだ概念であることに注意が必要です。

 

さて、ここでリスクがそういうものだとしてくじの意思決定の問題に戻りましょう。

 

もし、リスクに無関心な人がいるとすれば国債もベンチャー投資も同じ価値となるでしょう。ファイナンス的にいうと、国債もベンチャー投資も同じ期待効用(簡単にいうと幸せ)をもたらすといえます。

 

では、リスクを回避する人だったらどのような意思決定をするでしょうか?この場合確実な110万円がもらえる国債を選択するはずです。なぜならこのような人は期待値が同じであれば、よりリスクの低い投資対象を選ぶからです。

 

逆にリスクが好きな人はどのような意思決定をするでしょうか?この場合はリスクを回避する人は逆に、ベンチャー投資を選ぶことになります。なぜならこのような人は同じ期待値であればよりリスクの高い投資対象を選ぶからです。

 

このように、リスクに対する考え方が異なる主体をそれぞれ想定することで意思決定は異なってきます。ただ、ファイナンスでは期待値が同じであればよりリスクの低い投資対象を選ぶ主体が合理的な主体であるとして議論をします。このような主体の性質をリスク回避的といいます。

 

それではこのようなリスク回避的者を前提として再びリスクとリターンについて考えてみましょう。

 

今まで述べてきたように、リスク回避者は同じ期待値であれば国債を選ぶという意思決定を行います。では、リスク回避者はベンチャー投資の期待値がどんなに高くても国債を選ぶのでしょうか?そんなことはありません。ベンチャー投資を選択してもいいと判断するくらい期待値の高いベンチャー投資であればベンチャー投資を行うはずです。つまり、リスクに見合った見返りがあればリスク回避者でもベンチャー投資をを選ぶことがありえます。

 

まさしく、これがファイナンスでいうリスクとリターンの本質的な関係です。つまりリターンとはリスクの見返りなのです。リスクが高いほどリスク回避者はリターンを要求します。そして、この投資選択問題で国債の価格と、くじBが選択されるようなベンチャー投資の価格の差は「リスクプレミアム」と呼ばれます。そして、リスク回避者が国債とベンチャー投資に対して同じ期待効用をもつとき(ファイナンスでは無差別といいます)、そのベンチャー投資の価格を「確実性等価」といいます。ですから、国債の価格にリスクプレミアムを足したものがベンチャー投資の価格ということができます。

 

参考文献

野口悠紀雄「金融工学、こんなに面白い」文春新書(2000)

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マイクロファイナンス情報2008年4月24日 15:31

マイクロファイナンスの現状

このカテゴリーでは、マイクロファイナンスに関する基本情報をお伝えしたいと思います。


1.マイクロファイナンスとは何か
2.高すぎる金利?
3.経済学のロジックからみたマイクロファイナンス

 

1.マイクロファイナンスとは何か

マイクロ(小さい)ファイナンス(融資)という言葉からもわかるように、マイクロファイナンスとは、小口の融資、特に開発途上国における小口の融資を指します。もともと、開発途上国では、借入能力の高くない人々に対して、融資がなかなかつかない、そしてそれゆえに新規事業を興し貧困を逃れることができない、という状況がありました。そのような人々にとっての貴重な資金調達の手段として登場してきたのが、マイクロファイナンスです。マイクロファイナンス金融機関(MFI,Micro Finance Institution)は、通常の金融機関からは借入を行うことができない人々に資金を貸し付け、資金制約に苦しむ人々の貧困からの脱出に寄与してきました。
これらマイクロクレジットを行う金融機関である、MFI(Micro FinanceInstitutions)は、私企業や政府組織などの形態をとっています。MFIはこの期間に爆発的に増加しています。これは、マイクロクレジットに対する需要の高まりを反映しているといえるのかもしれません。

 

MFIの代表例:グラミン銀行
マイクロファイナンスにおいて有名なのは、バングラディッシュのグラミン銀行でしょう。グラミン銀行における貸し出しの在り方は、以下のようなものだそうです:

 

・5人1組のグループに貸し付け、それは連帯保証
・5人のグループは、借り手が自分たちで選ぶ
・金利は25%~30%以上と、かなり高い
・女性に貸し付ける(グラミン銀行では、97%の貸付は女性に対してなされています)
(ただし、グループ貸付については、結果として本当に困っている人に融資がつかないという問題があったため、廃止の方向にあるようです)

 

このマイクロファイナンス、回収率はなんと98%を誇ります。 大成功したグラミン銀行は一気に成長をしました。
そして、総裁のモハマド・ユヌス氏は「底辺からの経済的および社会的発展の創造に対する努力」を理由として、ノーベル平和賞を受賞しました。

 

 

2.高すぎる金利?

マイクロファイナンスの金利は非常に高いです。25%以上という場合も多く、日本であれば、上限金利規制に抵触してしまう高さです。ですが、マイクロファイナンスの金利の高さはある程度までは合理化できるものなのかもしれません。その理由は主に以下の2つです:
・借りた人が返せなくなるリスクが高いため、そのリスクの対価として金利を高くする必要があること
・少額の融資においては、どうしても一つの融資あたりのコスト比率が高くなり、それを金利収入で賄う必要があること

 

特に、規模の問題は非常に重要なポイントとなっています。多くの金融機関が少額の融資を行わないのは、このような理由によっています(ただし、いくつかの開発途上国の金融機関は、携帯電話などの端末を利用した貸付の取り組みをして、この問題をクリアしつつあるそうです)。

 

 

3.経済学のロジックからみたマイクロファイナンス

マイクロファイナンスの成功は経済学のロジックにもかなっているものといえるのかもしれません。

 

1)社会的資本の活用
社会的資本というのは、その社会において共有されている信頼関係などを指します。グループによる連帯責任という仕組みを作ることにより、この社会的資本は対外的に価値を有することになります。社会的なつながりが強い人々の中においては、お互いの信頼を損ねないように、人々ができる限り努力をし、結果として借り手のモラルハザード(計画的破産など)が減少することになります。

 

2)情報の非対称性の克服
融資を行う際に、借り手と貸し手の間には、持っている情報について大きな隔たりがあります。借り手は自分の財務状況をよく知っているのに対し、貸し手の借り手に対する情報は限られています。両者の間にある情報の隔たりを、情報の非対称性といいますが、上で述べたようなグループでの借り入れは、この情報の非対称性をある程度まで克服することができます。なぜなら、借り手側は、連帯責任という事を考え、自分がよく知っていて、信頼できる仲間を集めようとするために、貸し手が「貸してはいけない人に貸してしまう」可能性を下げることができます。金融機関は、自らが本来行っていた審査のコストを下げることができるようになります。

 


また、仲間内の監視により、
・借入段階
・借入後の投資
・投資後の行い
において、モラルハザードが減少する可能性が生じ得ます。

 


3)リスク分散
グループでの連帯責任のため、ひとりがデフォルト(債務不履行)しても他者がその分を賄うということになります。
これは、表現を変えると、ひとりひとりの借り手の個別リスクを分散しているともいえます。

 

もちろん、マイクロファイナンスには批判もあります。たとえば、グラミン銀行の貸付方法については、「グラミン銀行はただ単に、撤廃されるべき社会制度(女性差別など)を利用しただけなのではないか」、という批判があるようです。また、多くのMFIにより、日本の多重債務者問題に類似した問題が起こっており、深刻な社会問題になりつつあります。

 

これら批判は一面において当を得ているとは思います。それでもなお、マイクロファイナンスは、本来であれば資金調達をすることがかなわなかった人々に対し道を開いたという点において、少なくない人々に新たな機会をもたらしたという点で、評価されるべきなのだと思われます。

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