百年の森を育てる - ニュース -
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インタビュー・メッセージ2011年1月7日 00:00
成果をみんなで分かち合えるよう、最後までやり切る
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「100年の森林構想」開始3年で、人口1600人の村に60人の雇用を創出
Q. 最初に、トビムシの役員でもある牧さんが代表を務めていらっしゃる「森の学校」の役割と事業の進捗状況を教えていただけますか。
A. トビムシが株主となっている森の学校の主たる役割は、山で伐られた木材を、地域のなかで加工して付加価値をつけて販売していくことです。
[トビムシ 取締役 牧大介氏]
トビムシや森の学校が関わるようになって、2008年時点で年間50ヘクタールしかなかった間伐の面積が、年間300ヘクタールと6倍に増えました。ファンドメンバーの力で機械も入って動き出していますので、50~60立方メートル/日くらいの間伐材が出てきています。おおよその目安で、40~50年の間伐材を4~5本で1立方メートルですので約200本/日、ちなみに、太さでいいますと、だいたい20センチメートルくらいと、建築用の柱になるかどうかという材です。
「100年の森林構想」というものを2008年から地域で実施しているなかで、関連する事業も含め、だいたい60名くらいの雇用を生み出しています。森林組合では3年のあいだに20名強、加工に携わる人も、ワリバシ事業も含めて30名以上増えてきています。既存の雇用を守っていくというところにも寄与していますし、新しく外部から雇った人もいます。
移住者は、家族も含めると、40名程度です。西粟倉村の人口は1600名ですので、40名という数字は大きいのではないかと思います。小学校の1学年の生徒数がどんどん減っているなかで、子どもを連れて移住してきているので、1学年10人くらいを維持できています。これから結婚する若い人たちも来ているので、結婚して子どもが増えていくのではないかと期待しています。
販売について言うと、「DAIKプロジェクト」では、現在は、サンプル商品を作成しているので、来年からは本格的に市場に出せるのではないかと考えています。まずはニシアワーのウェブサイトとトビムシのバイテンで販売することを検討しています。
商品のコンセプトは、「西粟倉の時間」というものをお客さんと共有していきたいということです。時間をかけて森をつくって、そこから出てくる木を長くお客さんに使っていただくなかで、森とお客さんの関係がつくられ、熟成した味わいが生まれればと思っています。西粟倉の時間とお客様の時間を重ね合わされていくといいですね。
森や自然を守りながら、人の生活を成り立たせる
Q. 森の学校、トビムシ、森林組合、行政が連携されることで、事業は順調に進まれているのですね。そもそも、親会社であるアミタホールディングス株式会社を含めて、どのような経緯で、今回のような取組が始まったのですか。また、牧さんご自身が、こうした分野に身を投じられることになった経緯を教えていただけますか。
A. 私自身は、何となく自然とか生き物に関心がありましたので、そういう分野について学べる農学部林学科に入学しました。「森や自然を守っていかないと」という気持ちはもっていましたが、そこには同時に人がいるので、「人の生活も成り立っていかないと」ということに学生になって、ようやく分かりました。自然だけの研究をやっていても解決できないし、自然も守れないし、人の暮らしも、社会も守っていけないということがわかってきたんです。
[小口所有されている林地が集約化された箇所の施業の進捗状況]
森と人のつながりを再生させていく取り組みをしていきたいと、最初は、シンクタンクに入社しました。林業に関係するコンサルティングなどをしていたのですが、いい提案をしたとしても実行されないと意味がありません。そこで、ある程度リスクをとって、自分で事業をつくって、最後までしっかりやり切れるような仕事のスタイルをとりたいなということで試行錯誤していたときに、アミタと出会い、2005年に転職しました。
総務省の「地域再生マネージャー事業」というものがあって、西粟倉の地域事業に総務省から派遣されるというかたちで、アミタと西粟倉は、2004年からお付き合いが始まりました。この2004年は、西粟倉が美作市に入らない、自立していくということを決断した年でもあります。
この3年間のプロジェクトで、最後の年には「木薫」という会社を立ち上げることができました。森作りから最終製品作りまで、西粟倉の森とお客様をつなぐところまで踏み込んでいかないといけないと、若い人たちが決心して覚悟を決めて始めた会社です。そこで掲げられた「100年の森林構想」という旗を村全体に拡大していこう、村全体の森を蘇らせてたくさんのお客様と森をつないでいこうと、そういう挑戦を始めていこうという大きな展開が2008年から始まることになりました。
私自身、何とか成功させるべく、サポートをしっかりしていきたいということがあって、2008年末から専従として仕事をさせていただけるということになって、トビムシという会社を2009年に立ち上げました。
期待して見守ってくださるファンドメンバーがいるから、村は応えようとがんばれる
Q. 2004年から約6年が経過しているわけですが、いろいろな課題があると思います。どのような課題があるかを教えていただけますか。特に地域の方たちの関係作りは、苦労されることが多いと推測するのですが、いかがでしょうか。
A. 地域の人たちとの問題はないことはないです。それは当然のことだと思います。けれども、地域のなかにも、応援してくださる方もたくさんいらっしゃいます。「よくわかんないな」と疑心暗鬼になられる方もいないわけではありません。そうしたなかで、誰かが何かをしていかなければならないので、応援してくださる方が大変だと思います。
[ファンドメンバーと西粟倉村民との交流]
ファンドメンバーの方が西粟倉に来ていただいて、村の方と一緒に交流会をやったりするなかで、「こんなに村のことを応援してくれる人がいるんだから、応えていかないと」と、私自身も、森林組合長、現場で作業をしておられる方々も思っています。お金を払って来られるわけですから、われわれが「がんばりましょう」と言うよりも、精神的な支えになっています。いろいろな課題があるなかで、そういう人たちがいることで、難しいことだけど頑張ろうと思えます。
期待して見守ってくださっている方がいて、村は期待に応えようとしています。これまでは交付金を使っていくことだけでした。たとえば、村は過疎債というものを使うことができました。これは1億円起債すると、6000万くらいは交付金でチャラになるという、プレッシャーのかからない国からのお金です。
地域には、きちんと価値を生み出して、お金を出してくださる人から価値の対価としてお金をいただくということはあまりありません。ビジネスをやっている人であれば、喜んでくださるお客さんがいないとお金が儲からないのは当然ですが、地域では、そうではないことが当たり前です。
ある意味、村が始めた事業の資金の一部を民間から投資というかたちで、しかも小口でたくさんの人に出資してもらうのは、村でも「恐ろしいことだ」と、「ものすごい責任を負うことだ」と、「国からもらう方がいくらか気持ちが楽だ」という議論もあったくらいです。でも、あえて、そこに踏み込まなければいけないと村サイドにも思ってもらえたのだと思います。
実際、村の将来に期待してくれる人たちとお酒を飲むなかで、「何とかこの人たちの期待に応えていかなきゃいけない」と思うことは、今までよりも元気になるんですね。顔の見えないお金が地域に降ってきて、ただそのなかでお金を消化するように仕事をしてきた人たちが、自分たちがいい仕事をすることで、この人たちが喜んでくれると思うようになります。
一生懸命いい仕事をすれば都会の応援団の方々も喜んでいただけて、それが嬉しい、そういう気持ちでできるというのが日本の田舎でちゃんとできている。しかも一部ではなく、村全体の取組のなかでできているのは非常に大きいんじゃないかと思います。本当の意味での村の自立、精神的な意味での自立というのも、そこから始まるんじゃないかなと思っています。西粟倉は、共有の森ファンドというものを導入するなかで、一歩、前に進み出すことができたんじゃないかなと思います。
10年後の成果をみんなで分かち合えるよう、やり切る
Q. 「西粟倉村共有の森ファンド2009・2010」の契約期間は2019年6月30日までと、昨年から考えると10年間と長期間にわたるファンドです。ファンドが終わったときのイメージを教えていただけますか。
A. 「ファンドのメンバーになって、10年間、応援していてよかったな」と五感で感じていただけるような状態にもっていきたいと考えています。
[ファンドメンバーが現地ツアーで訪れたときに提供される鹿肉や野菜など、森の恵み]
今は間伐を何とか効率よくやろうというところをやっているのですが、10年間やると、地域全体の森が蘇ってきて、本当に自然が回復してきているんじゃないかと思います。森が再生されていくなかで、山菜や魚が戻り始めているところだと思います。商品作りも進んでいると思いますし、素敵な宿が生まれていると思います。
そういうなかで、人もたくさん集まってきていたり、いま集まっている人たちも家族をもって子どもも生まれたりしているんじゃないかと思います。活気がって、誰かのためにがんばろうと思えている人たちがたくさん集まっている、そういう空気が伝わる場所になっているんじゃないかなと思います。
今の状態を見ていただいている方にしか、10年間でこれだけ変わったねということを確認していただけないので、ファンドメンバーの方には、今のうちに、1回、来ていただきたいですね。何回か来ていただいている方からは、来るたびに「変わった」と言っていただけていますので、変化を楽しんで欲しい。10年後の成果を、ファンドの皆さんと分かち合えるようにやり切りたいと思います。
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西粟倉村共有の森ファンドの詳細はこちら:
https://www.securite.jp/fund/detail/145