えこふぁーむニュース
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社長コラム2009年11月19日 16:31
発酵床(バイオベッド)豚舎を活用した地域循環システム
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環境双方向産学会 in 鹿児島 (平成14年11月15日)
『 発酵床(バイオベッド)豚舎を活用した地域循環システム 』
株式会社 ト ッ プ ラ イ ン
代表取締役 中 村 義 幸
1. は じ め に
私共の会社は鹿児島県の大隅半島に於て、関連グループ3社と共に廃棄物処理を中心とする環境関連事業を行っております。中小企業ならではの迅速で小回りの効く、地域密着型の対応を目指しています。
「環境」という文字を『環』と『境』とに分解して、私なりの解釈をさせて頂くと、『環』は輪という意味で循環にも通じます。『境』は文字通り境(さかい) で、自然界と人間の経済活動(または物質文明)との境界を現しているように思います。つまり、全ての人は、生きていく上で「環境」との関わりをもっていることになります。さらには、業として「環境」に携わることは環(わ)の境界上にいて、自然界と人間社会との橋渡しをする重要なポジションだと思います。
日頃の事業活動の中で、再生可能な有機系廃棄物の飼料化・肥料化を通じて地域内で効率の良い循環システムを立ち上げ、健康な土づくり、エネルギーの回収を行い、地域の活性化さらには持続可能な社会づくりに貢献出来ないだろうかと常々考えておりました。
☆ 豚は 「 生きた生ごみ処理機 ? 」
昨年5月より黒豚を飼い始めました。どうして廃棄物処理業者が豚を飼い始めたのか?? それは、昨年5月に「食品リサイクル法」が施行されたのがきっかけでした。
この新法の登場は、私共が長年にわたり廃棄物処理に関わり、町から家庭系、事業系ゴミの収集運搬の委託・許可を受けている経緯もあり、生ゴミが比較的手に入りやすい状況にあったことからビジネスチャンスの到来と受け止めたのでした。
私達は、食品廃棄物を直接肥料化(堆肥化)するのではなく、餌として一旦与えて出てきたもの(排泄物)を堆肥化しようと考えました。つまり、豚を「生きた生ごみ処理機(大きな微生物)」の位置付けとしたのです。
単なる養豚業ではなく廃棄物処理施設あるいは再商品化処理施設としてみることで、将来的には処理施設の許可を取得して、収集・運搬、処理料金を頂きながら餌となる生ゴミを受け入れることが可能ではないかと、期待を込めて考えています。
【 イ メ ー ジ 】
生ゴミ→ 餌→ 豚→ 堆肥→ 有機農産物→ 食品→ 日常生活→ 生ゴミ
↓ ↓
肉 エネルギー(自家消費)
2. 背 景
人の健康と福祉は、エネルギー・水・食料・その他の資源が効率的・安定的に供給され、廃棄物が安全に処理されるかどうかにかかっています。よく、「地球規模で考え、足元(地域)から行動へ移す」という言葉を耳にしますが、経済の拡大に狂奔してきた20世紀後半には、経済活動の暴発的増大による地球温暖化や化学物質汚染に代表される様々な環境問題の発生、最終処分場の不足等、様々な問題を生じてきました。
日本は金額ベースでは経済大国・輸出大国といえますが、重量ベースでは明らかに輸入超過です。食糧自給率も政府目標が45パーセントとお粗末な限りです。穀物自給率に至っては30%を切っている現状です。御存知のとおり主な地下資源も輸入に頼っております。大雑把にみて日本への年間総輸入量が8億トンで、年間総輸出量が1億トンです。狭い国内に残る7億トンのうち、4億5千万トンが廃棄物(一廃約5千万トン、産廃約4億トン)です。廃棄物の埋め立て最終処分場容量の残余年数が少なくなるのは自明の理です。
食品廃棄物の量を見てみると、食べ残し(残飯)、調理屑、食品加工屑、賞味期限切れなど、「食品廃棄物の総排出量は約2,000 万トン」で、家庭からはその半分に当る1,000万トンが排出され、食品小売店やスーパーなどの食品販売業や、ファーストフード、ファミリーレストラン等、外食産業などから合わせて約600万トン、食品製造業から約400万トンが排出されています。別の統計からカロリー(熱量)ベースで見てみると、供給される食料の約30%が捨てられていることになります(供給量-摂取量)。
このようなムダを背景に、様々な問題点が浮かび上がってきました。
* 高含水率のため、焼却処理費用を増大させる(補助燃料の消費増)。
* 焼却の際にダイオキシンや他の有害物質の排出原因となる(温度低下・塩類の影響)。
* 食糧・飼料の大量輸入によって国土に窒素分が過剰蓄積する(地下水汚染・富栄養化)。
一方、戦後の国内農業は生産性が高まると信じて化学肥料・農薬散布に依存する形態となりました。単一作物の連作や規格品大量生産の影響もあり、畜産農家と耕種農家間の「食の循環」が分断された結果、地力の低下・土壌汚染がさらに作物の抵抗性を奪い、化学肥料・農薬を多投するといった悪循環に陥っています。
そのような中、昨今では消費者の健康・安全志向が高まるのと同時に、環境に対する意識が向上するのと相まって「有機農産物」への需要が伸びてきています。これに伴い、有機肥料に対する期待が集まっています。環境保全型有機農業へのシフトは、消費者にとってのみならず、生産者にとっても化学物質の暴露から逃れることや、土壌の本来持つ力の回復にもつながり喜ばしいかぎりです。
「食の循環」が復活するのを機に、家畜ふん尿をはじめとする有機系廃棄物由来の質の良い完熟堆肥が求められ、また、その処理・製造過程から未利用エネルギーを取り出す動きが見られるようになりました。このことは、地球温暖化防止にもつながり、エネルギー回収型資源循環システムの実現にも弾みがつき、地域の活性化にも少なからず寄与出来そうです。
3. 現 在 の 取 り 組 み
いきなり大規模に取り組むと、失敗したときのリスクが大きいので実験的に小規模に始めました(最大24~25 頭収容可)。最初はオス1頭、メス1頭の2頭の子豚(10㎏)を知人の養豚農家から分けてもらいました。私自身、豚を飼うのは初めての経験で、全くのズブの素人です。オスは去勢してあるので初めは♂♀の区別もつかない状態でした。
養豚をする上で考慮しなくてはいけない問題が、汚水(ふん尿)処理の問題です。平成16年度から養豚施設からの放流基準が今以上に厳しくなります。企業養豚として大規模に運営しているところは補助金を受けつつ自前の汚水処理施設を整備して対応できますが、中小規模の農家養豚では補助金を受けるにしても自己負担額が大きくなり、支払能力がないところは廃業を余儀なくされる運命です。
当然私共にも立派な処理施設を備えるだけの余裕はありません。そこで取り入れたのが汚水(ふん尿)処理施設不要の「発酵床(バイオベッド)」です。敷き床におがくず(これもリサイクルされたもの!)を80~90cm敷き詰め、これに培養した「土着菌(土着微生物)」を混ぜたものです。土着菌は近所の山の落ち葉の裏から簡単に採取でき(つまり無料)、米ぬかと廃糖蜜(これも一種のリサイクルか?) を加えることにより大量に培養できます。
発酵床については、姫路市の(株)福永微生物研究所(600頭肥育)の視察をして、土着菌に関しては、鹿児島大学農学部の柳田宏一教授の報文を参考にさせて頂きました。
土着菌は、地球が誕生以来40 数億年の環境の変化に耐えて今日まで生き長らえて、その土地や地域の環境に最も適応した強力な微生物として捉えることができます。わざわざ購入した高価な菌が、導入した地域で求められる所期の働き(優先種となること)をしてくれるとは限りません。微生物間でも、し烈な生存競争をした結果(拮抗)、その土地に合ったバランスが保たれているのではないでしょうか。また、一種類の微生物が独占的に作用するのではなく、数十種類の「微生物群」として作用しているものと思われます。
豚は、発酵床の上に糞尿をしますが、翌日には固形分は見当たらない程、土着菌が分解してくれます。山歩きをしていて野生動物の死骸や排泄物を目にすることが少ないことを思い起こすと理解しやすいと思います。しかも、豚小屋に付き物の悪臭はほとんどと言ってよいくらい発生しません。豚の体も汚れません。
最近、国立公園の山岳等に汲み取り不要の「バイオトイレ」が設置されるという報道を目にしますが、多分原理は同じようなことなのかもしれません。
数ヶ月経つと敷き床全体が目減りしてきますので、新しいおがくずの補充が必要になります。その際、古い敷き床の一部を豚舎から出して堆肥にします。この時点で色も形もホクホクの土壌の様に変化しています。
肝心の餌は、地元の老人ホームと老健施設から生ゴミを無料で譲ってもらい、ポリバケツで毎日回収しました。用途を伝えてあり箸・爪楊枝・プラスチック等の夾雑物は混ざっておりません。非常に協力的で助かります。
水分が多いのでザルで水を切り、水分は堆肥にかけて、ザルに残ったものに水分調整と栄養のバランス調整の意味合いで、ごく少量ですがフスマ・圧片麦・トウモロコシ粉等(いずれも安価)を加えて餌にします(自家配合飼料)。嗜好性は良く、ムシャムシャと音を立てて喜んで食べます。老人向けの献立なので脂肪分は相対的に低いのかもしれません。
頭数が少ないので企業養豚のように不断給餌とはいきません。朝昼晩の3食です。そのため、餌を待ちきれない時にはナント、足元の敷き床を食べています。敷き床に含まれている多様な微生物を摂取することにより、腸内細菌の働きも活発になるのか非常に見事な糞便をしてくれます。糞便自体も強烈な匂いはしません。寄生虫も見あたりません。
通常行われている飼育法では、毎日の糞出し作業が重労働と時間の消費の原因となっています。発酵床(バイオベッド)方式の場合、この作業がないので日常において時間を有効に使える利点があります。コスト低減効果と省力化が見込めます。
豚舎の外で完熟させた堆肥の一部は、おがくずの補充の際に種菌(戻し敷料)として混入させます。このことで、敷地内から汚物は外に一切出ず(当然、放流水もなし)、一種のクローズドシステムともいえます。余剰の完熟堆肥は有機肥料として有効利用できます。
足元がコンクリートや、すのこではなく、敷き床なので自由に掘ったり寝そべったり遊ぶことができます。そのためストレスが溜まらないのか毛艶も良く病気もしません。何よりも神経質ではなくのんびりしています。喧嘩もしませんし、尻尾をかじることもありません。病気(伝染病・寄生虫)予防のためのワクチネーションは購入以前に済ませてあります。
最初の2頭は昨年12月に出荷しました(肥育期間7ヶ月)。枝肉の一部を分けてもらい、通常の高価な配合飼料で育てられた豚肉と、私どもの安価な自家配合飼料で育った豚肉を、3人の養豚農家を招いて中身を明かさないで食べ比べをしてみました(忘年会とも言う)。その結果、養豚農家はしきりに首をひねっておりました。つまり、専門家でもハッキリとした違いがわからない美味しい豚肉に仕上がったわけです。脂身も真っ白でした。
第2陣として昨年10月に同じく黒豚の子豚(10㎏)を18頭購入しました。最初の一週間で2頭が痩せて死んでしまいました。ビックリして地元の県家畜保健衛生所に相談したところ、解剖して死因を探ってくれる事になりました(無料)。勉強のため、解剖にも立ち会いました。原因は、消化器官が未発達の段階で離乳食を与えないで、いきなり特製(?)自家配合飼料を与えたため、腸に炎症を起こし栄養を摂取できなかった為と判明しました。
残りの16頭は、病気一つしないで順調に育ってくれて、無事7月に出荷することが出来ました(肥育期間約9ヶ月)。正確には、出荷したのは15頭でした。社員が出産を経験してみたいという希望を持っていたので、母豚として1頭残して、発情のあった8月末に本交を済ませました。
確実に受胎したかどうかは、次の発情期が来るまで判らないので、この母豚とは別に、確実なところで妊娠済みの母豚を購入することにしました。妊娠済みの母豚は一貫生産農家にとって宝物ですから、通常、売買はされません。異例中の異例ですので、拝み倒して交渉をしました。
ですから、9月からは妊娠母豚が2頭居ます。うまくいくと年末くらいに子豚が生まれるハズです。今のところ出産に立ち会う自信(勇気)はありません・・・。社員は出産に備え、知人の養豚農家へ実地訓練に通っております。玉抜き、切歯等の処置も練習しています。
一貫生産ではなく、肥育だけのほうが出荷計画も立てやすいし、手間もかからないのですが、発酵床(バイオベッド)方式という飼育環境に適応した豚が確立出来るのではないかと思い、二世代・三世代と継代してみる狙いがあります。
一般論として、黒豚は白豚と比較して産仔数が少なく肥育期間も長くなる傾向があります。このような特性のため生産効率至上主義の現場では白豚飼育のほうが効率が良く、一時期黒豚の飼育頭数が激減したそうです。しかし、味が優れているので鹿児島県を代表するブランド品として生き延びることが出来ました。
生ゴミ由来の自家配合飼料で、正直、試食に耐える肉が出来るとは思っていませんでした。せいぜいハム・ソーセージの加工用か、最悪、ペットフードの原料用でも仕方がないと期待していませんでした。ところが、第2陣で出荷した豚も、規格からすると厚脂だったり、肥育期間が長すぎて重量オーバーだったりしましたが(規格外だと引き取り単価が安くなる)、味のほうは天下一品でした。素人の強みでしょうか・・・?
ここまで、何食わぬ顔で書き連ねて参りましたが、1年6ヶ月で17頭の出荷です。この間、2名の社員が交代で休みを取りながら貼り付いております。実験段階とはいえ、たぶん世界一高い単価の豚肉生産農家です。この構想が成功すると、逆に安い経費で美味しい肉が作れることになるので、これにめげずに、志は高く持って頑張るつもりです。オートメーション化が進んだ企業養豚では1名で 1,000頭の飼育を受け持っているそうです。
4. 今 後 の 展 開
本構想を今一度おさらいをすると、食品廃棄物を餌にして豚を「生きた生ゴミ処理機」の位置づけとし、一端豚の体内を通って出てきたもので堆肥をつくり、その堆肥を利用して有機農業へと発展させるという流れです。その過程の中で、生産・販売が生じます。
お金付で餌が手に入り、豚は商品として出荷でき、副産物である完熟堆肥は売れるかもしれません。売れないとしても、自社農園に使用して有機農産物をつくり有価物として出荷することができます。
2頭で始めて20頭規模までこぎつけました。今後は、さらにスケールアップして200頭規模で実験してみようと思っております。経済性を考慮した、最適な敷き床の厚みや飼育密度、自家配合飼料等のデーターもさらなる検証が必要です。
餌の扱いやすさ・保存性を考えて真空乾燥装置か、発酵飼料製造機を設置する計画もあります。さらには、餌の原料として焼酎廃液も受け入れようと考えております(地域特性を活かす)。
私共が出荷する豚は、脂肪の厚みや体重のことを考えると一般の規格から外れがちで良い単価が付きません。相場にも左右されます。それならば、付加価値をつけてPB(プライベート・ブランド)化を目指すというのもひとつの方向かもしれません。オーナー制度という消費者参加型のシステムも検討に値するようです。出資者はすなわち生ごみ排出者でもあるようにデザインする。こうすることによって,出資者は自分の豚を自分たちで育てている感覚になりますし,出資の見返りは肉となって返ってきます。もちろん自由に視察をしてもらって,飼育状況を見てもらいます。そうすることによって,食の安全や環境配慮を「実感」として提供できるのではないでしょうか。見た目と味では遜色ありませんので、生産者自らが販売価格を設定できれば足腰の強い経営につながります。幸い、手作りハム・ソーセージを作る技術を持ったスタッフも揃ったので二次加工への道もひらけます。
「行動無くして結果無し」という言葉があります。やってみなくてはどんな結果も出てきません。失敗したとしても次にその経験を活かすことが出来ます。
この実験に取り組む中で新たな発見にも遭遇しました。豚舎の外に積んである堆肥の中は、毎日、生ゴミの水をきる際に出る残汁をかけているせいか、常に 60℃以上を保っております。切り返しをする際、ムッとするくらいの熱気を感じます。微生物群が文句も言わずにセッセセッセと24時間体制で発熱してくれているわけです。
この堆肥の中に水道ホースをひくだけで簡易温水器が出来るのでは? と考えた延長線上に登場したのが「ヒートポンプ」です。一言でいうと高性能熱交換機で、都市部では10℃程度の地下鉄排気口の温度差で発電が出来てしまうスグレモノらしいのです。メタンガス発電のような複雑なシステムではなく、シンプルに直接的に温度差を利用してみようと考えております。
今まで見向きもされずに捨てられていた、未利用エネルギーの再利用です。うまくいくと冷暖房用の熱源として、あるいは発電まで可能かもしれません。一箇所あたりの量は少ないかもしれませんが、全国的規模・世界的規模で捉えると有用なエネルギー源として活用出来る可能性を秘めているのではないでしょうか。
現在、事業所や一般家庭用に普及しつつある機械式生ゴミ処理機(市販品)から出来るものは、あくまでもコンポストもどきであって、そのままでは完熟していないので肥料としては使い物になりません。塩分・脂肪分の課題もあります。そこで、その発生物を回収して高次発酵まで引き受ける受け皿企業としてお役に立てないか現在模索中です。資源循環型社会の構築にむけて、都会では出来ない田舎ならではのシステム作りの手法があるはずです。全国一律に実施すべきものと、都市部と農村部の棲み分けによって実効のあるものとに分かれると思います。新しい法律が施行されるということは、それに付随した新しい業務が派生します。法律の内容を吟味することで、私達が地域のために出来ることをなにか見つけられるかもしれません。お手伝いできそうな業務があれば、地域の行政や住民にアピールすることです。つまり、提案型企業となって新しい仕事を創出する訳です。
農業関連法等は普段馴染みが薄いかもしれませんが、化学肥料の過剰投与や家畜糞尿の農地還元により、身近な地下水が硝酸性窒素による汚染を受けているケースが見受けられます。直接的な修復法や間接的な手法により、新しいビジネスチャンスの到来と受け止めることも出来ます。
都市緑地保全法では都市計画法や環境基本法との調和を保つように謳われております。都市部のヒートアイランド現象緩和効果を狙った屋上緑化に関係があります。有機系廃棄物から製造した完熟堆肥を用いて、屋上緑化用植物の生産と都市部への供給といった新産業が創出できそうな気がします。軽量人工土壌の開発は盛んですが、肝心の屋上緑化用植物の供給が不足しては推進出来ません。記憶に新しいところでも、東京・福岡・名古屋と死者を出した都市型集中豪雨の被害がありました。国や東京都では屋上や壁面の緑化をする者に対して減税や補助金の交付・新規着工ビルへの義務化を決めており、今後強く推進を図る模様です。
<参 考: 屋上緑化に適した植物>
メキシコマンネングサ・ツルマンネングサ・サカサマンネングサなどのセダム類、サボテン、パンパスなどの砂漠に生えているような植物や、高原か岩場の植物。常緑樹でよく使われるのはオリーブ、イヌツゲ、エリカ類など。ビルの屋上という特殊な環境の特徴としては、1.恒常的に風が吹き、高いビルほど風が強い、2.盛土の厚さにも制限がある、3.これらの影響で土が乾燥しやすい、などが挙げられるでしょう。このことから、屋上緑化には、寒暖の差と風、乾燥に強く、根を深くはらないものがよいといえます。また、建物の荷重も考えると、大きくなりすぎない植物を選ぶ必要があります。土壌飛散や乾燥防止の観点からは、裸地を作らないために芝や地被植物で土壌を覆うとよいでしょう。
屋上緑化用植物の生産と共に、ビオトープに適した植物の生産も、今後需要が伸びると思われます。これらの一大生産・供給基地ともなると、栽培期間中はその地域の自然景観を形成することになり、地域住民からも旅行者からも歓迎されることでしょう。
河川法では「治水・利水第一主義」の河川行政に「多様な生物の棲む環境としての河川」という新たな視点が加わり、地域住民と川との垣根を低くして親水機能をもたせた、いわば共生の時代にふさわしい新工法「多自然型工法」が盛り込まれました。これまでの防災機能を維持しながら自然環境を修復する河川工事の手法です(環境修復型公共工事)。
この分野は素人なので実現可能かどうか判断がつきませんが、例えば、液肥や堆肥抽出水等でコンクリートを練った「バイオコンクリート(仮称)」が出来るとすると、護岸工事後の植物の着生が早まるかもしれませんし、魚礁を作れば海藻が付きやすくなり、磯焼けで壊滅状態の沿岸漁業の福音になる可能性も無視出来ません。
5. 今 後 の 課 題
家畜糞尿処理に関しては、大規模集中型の処理システムより、小規模分散型の個別処理システムのほうがリスクが少ないように感じます。もちろん一長一短はあるでしょうが、大規模型で対応する場合、一度機能不全に陥ると回復までに相当な時間がかかり、その間処理が出来なくなります。相手は動物ですので、排泄は待ったなしです。豚舎の今後の課題として多頭飼育(良い悪いは別にして)に適した構造の設計が必要です。最近の柳田教授の報文では、「高床式発酵床」が紹介されておりました。発想の転換で、一ヶ所に多頭飼育するのではなく町内の振興会単位で御協力を頂き、数頭ずつ地域で飼育して貰うことにより、子供からお年寄りまでの住民参加型のコミュニケーションが図られ環境意識の向上も期待出来るといった、福祉と環境学習を兼ね備えたシステムも田舎では可能かもしれません。
今回、御紹介しました構想は部分部分を眺めても、目新しいものや特別な技術は見当たりません。しかし、各々の組み合わせ方や全体の構想はビジネスモデルとして面白いものがあると思います。都市部では出来ないことを地方において実践することで、地方の活力が増すのではないでしょうか。
生ゴミ由来の餌料については、課題が山積しております。
現在、生ゴミの回収先が二軒と少ないので目が届きますが、将来、不特定多数の事業所や一般家庭から回収するとなると夾雑物の分別が大きな課題になりそうです。除去技術や倫理(モラル)の確立が求められます。
お弁当やお惣菜に含まれる食品添加物の問題も、餌として与えた場合の確固とした安全性は疑問です。しかし少なくとも、抗生物質や成長ホルモンが入っているとされる市販配合飼料よりは安全といえるのかもしれません。
現在、昨年秋に発生したBSEの影響で、牛に対しては肉骨粉の混ざった飼料は全面投与禁止となりました。近い将来、この延長線で豚に対しても禁止措置がとられるとなると(共食いは不自然という観点で)、私共の構想は根底から成り立たなくなります。生ゴミ中の肉の固形分はなんとか取り除けるとしても、可溶性成分で液体に移行するものは除去不可能だからです。一抹の不安が頭をよぎったとき、霧島高原ビール(株)(溝辺町)の山元社長が開発された、食品廃棄物を麹菌の利用で菌体タンパク質に変化させる発酵飼料製造技術があることを知りました。解釈の仕方では、元のタンパク質構造と違う別物に変化させるわけですので、このハードルはクリアーできるのではと甘い期待を抱いております。山元社長との会話の中で興味深かったのが、「一見、堆肥化と飼料化は似ているが中味(微生物の働かせかた)は全然違う」ということでした。堆肥化は完熟化の過程で、ある程度窒素分を減らさないといけないが、飼料化はいかに窒素分(菌体タンパク質)を減らさぬように維持するか・・・ということです。
これに関連して、最近興味のあるものに出会いました。「プロバイオテックス乳酸菌」と「ルーメン微生物」です。耳慣れない言葉ですが、プロバイオテックスとは、「動物やヒトに投与されたとき、消化管内の常在菌叢を改善することにより、宿主に有益な作用をもたらす単一あるいは複数の菌株からなる生きた培養菌」と定義されます。乳酸菌はpH4未満で優占種になるらしく、その酸性下ではいわゆる雑菌とか病原菌の活動が抑えられるそうです。飼料調整加工分野において有用微生物を積極的に利用する試みがなされていて、先進国においては抗生物質の飼料添加が厳しく規制されるに至り、代替物としてプロバイオテックス生菌剤や乳酸発酵物が家畜の発育促進、飼料効率の改善、下痢の予防や治療の目的で使用されつつあるそうです。今までの発酵飼料に求められていたのは嗜好性や貯蔵性の向上が主流でしたが、副作用や耐性菌の心配がないことから保健的効果も期待出来ると注目されています。早速、素人の強みを発揮して、今話題の「カスピ海ヨーグルト」を添加した自家配合乳酸発酵飼料を給餌して模様眺めといったところです。たしかに、嗜好性は良いようです。廃棄物処理業者は賞味期限切れの牛乳が手に入れば、どんどん増やせる有り難いポジションにおります。豚より牛に対する研究が先行しているようで、現在、独立行政法人「畜産草地研究所」(栃木県)の蔡義民博士と、メールにて情報交換を行っております。「ルーメン」とはウシの4つある胃のうちの第1胃(反芻胃)のことで、ルーメン内はpH6.0~7.0、39℃~41℃、微生物は、約70種類が生息するといいます。
その中には、セルロース分解菌、デンプン分解菌、そして、脂質分解菌等が存在し、この脂質分解菌に注目しました。その作用機序は難しくて判りませんが、うまくいくと、生ゴミ由来餌料の脂肪分低減に利用できるかもしれません。ひょっとすると、塩分分解(代謝)菌がいるかもしれません。これまた、堆肥の塩分障害の軽減につながる可能性があります。
驚いたことに、ルーメン内では飼料タンパク質の分解で生じたアンモニアから、アミノ酸を経て微生物菌体タンパク質が合成されるといいます。これは、「霧島高原ビール」で開発された飼料化装置の麹菌による菌体タンパク合成に相通じるものがありそうです。
素人の感覚(直感)にすぎませんが、同じ菌体タンパク質を合成するのであれば、麹菌よりルーメン内の微生物のほうがアバウトで扱いやすいような気がします。発酵自家製配合飼料の成分や機能性如何では、糞便の排出量軽減につながるかもしれませんし、そのまた逆かもしれません。まだまだ判らないことだらけです。畜産県鹿児島の良いところで、ルーメン微生物も近所の屠畜場の御協力により無料で手に入ります。今まで捨てられていたものですから、有効に利用できるとなるとこれも一種のリサイクルといえそうです。ただ、牛の体内から得たものを豚に与えて大丈夫なの?? という、素朴な疑問は残りますが・・・。
番外ですが、脂質分解菌を応用して飲食店のグリストラップ(油水分離装置)のメンテナンスに応用できる可能性もあります。
セルロース分解菌の応用としては、埋め立て処分場に注入して木くずや紙などのセルロースやリグニンを分解することにより、かさが減り、埋め立て残余年数を延命化できるかもしれません。(シロアリの消化管内微生物は、セルロース分解能は優れていますが入手困難です)
メタン生成菌も多く含まれているようで、畜産学の世界ではメタンの発生抑制(ゲップ防止=地球温暖化防止)の研究ばかりが盛んのようです。裏を返せば、発生促進の機序も解明が進んでいるでしょうから、今後増えそうな「バイオマスエネルギー」の利用へ応用できそうです。39℃~41℃が至適温度なので、メタン発生装置を加温するエネルギーが少なくて済むのではないでしょうか??
バイオレメディエーション(微生物による環境修復技術)やエネルギー分野まで幅広い可能性を秘めた「ルーメン微生物群」が宝の山に見えてきました。先日、財部町内に新しく出来た、民間の堆肥センター(処理能力 50㌧/日、バイオクリーン(株))へ視察に行って参りました。ちょうどタイミング良く、「真空乾燥機」のデモにも立ち会えました(処理能力 50㎏/バッチ←5時間処理)。
この乾燥機の優れたところは、減圧状況で30℃前後で乾燥できる点です。内部構造も工夫がしてありました。既知の乾燥装置では、ご飯粒は撹拌過程で餅状というか団子状になってしまい、表層部ばかりが乾燥して内部まで十分に乾燥が出来ないという欠点がありましたが、この装置では、ご飯粒はそのままの形状を保った状態で乾燥できるのです。焼酎廃液も問題なく乾燥出来るそうです。この装置を生ゴミ排出事業者にリース契約をしてもらい、私共が出来た乾燥物を回収するというシステムが可能であれば、回収時の輸送コスト減と能率UPに繋がりますし、夾雑物の除去の手間も低減されると思います。排出者にとっても収集業者にとっても、減容化はメリットがあります。自家配合飼料の原料としても有望です。飼料製造過程で生ゴミの混入率を上げることが出来ます。ただし、栄養価並びに栄養分のバランスの検証は必要です。
6. お わ り に
21世紀の課題は、①環境問題 ②人口問題 ③食料問題 ④エネルギー問題 といわれております。不思議な事にこれらすべてに「農業分野」が絡んでいるように思えてなりません。しかも、農林水産業は微生物の働き抜きでは語れません。つまり21世紀は微生物の活用如何にかかっていると言えそうです。まだまだ自然から学ぶ点も沢山あるような気がします。自然界の自浄能力を越えた規模拡大は間違っているということです。また、私たちのライフスタイルも「適量生産・適量消費・リサイクル」の足るを知る生活様式へと移行すべきなのかもしれません。
8月には、この道の大先輩でいらっしゃる県立農業大学校(牧園町)畜産工学部長の川井田先生と渡辺バークシャー牧場(霧島町)の渡辺社長のお話を伺ってきました。Know how の蓄積よりも、Know whoのネットワークを広げることが近道と感じている今日この頃です。
7. 謝 辞
共同研究者として助言を頂きました、鹿児島大学法文学部経済情報学科の大前慶和助教授並びに大前ゼミの学生諸氏に深く感謝申し上げます。
【参 考 資 料】
「大隅半島の人口は1600万人?」
大隅半島の人口が1600万人と聞いて驚かれると思いますが、もちろん、これだけの人々が住んでいる訳ではありません。ちょっとした数字のマジックで、実は、家畜の排泄物の量を人間の排泄量に置き換えて算出した数字です。鹿児島県内の産業廃棄物発生量は、大まかに申しますと、約1,000万トンといわれており、そのうち家畜糞尿は600万トン発生し全体の6割を占めております。鹿児島が畜産県といわれる所以です。曽於・肝属地区からは320万トン発生し、県内の半分以上を占めます。
水質の汚濁程度を調べる目安としてBOD(生物化学的酸素要求量)という指標がありますが、BOD量で換算いたしますと、牛一頭は人間の59人分、豚一頭は人間の15人分の糞尿を排泄していることになります(一個体当たりの排泄量と濃度から算出)。
一例を申し上げますと、1,000頭飼育している養豚場があるとすると、そこ一箇所だけで約1万5千人分の人のし尿を排出していることになります。
平成8年度の曽於・肝属地区の牛の出荷頭数は、約30,000頭・豚の出荷頭数は、 950,000頭といわれております。30,000×59=1,770,000人分の排泄量。
950,000×15=14,250,000人分の排泄量となり、合わせますと約1,600万人の人間が住んでいる計算になります。ちなみに、これには鶏や子豚・子牛の数は含めておりません。数字上のお遊びでしたが、意外に思われたかもしれません。
県では、この家畜糞尿を利用してコンポスト(堆肥)化を図り、有機農業に切り替えるべく、環境保全型農業を推進しております。市・町単独あるいはJA独自に取り組んでいるところもあるようです。
今後の、地下水・河川等の環境汚染が改善されていくことを願いたいものです。畜舎の汚水処理やコンポスト化に伴う施設整備の費用が、肉等の価格に上乗せされる時期も来るかもしれませんが、将来の我が身に降りかかるかもしれないツケを考えると消費者としても理解を示すべきかもしれません。
また、最近では土着菌を利用した畜産分野での新しい取り組みや、家畜糞尿から発生したメタンガスを利用する新エネルギー分野への応用等、新技術の導入によっては宝の山に変身する可能性も秘めています。なんとか皆で知恵を出し合って大隅半島を時代の最先端の地にしたいものです。 (中 村 義 幸)
『畜産における土着微生物の利用』より(鹿児島大学農学部付属農場 柳田宏一教授)
土着微生物は山の頂上付近で低温性糸状菌、中腹では酵母菌、裾野付近では高温性糸状菌、平地の畑では乳酸菌、水田では乳酸菌や細菌等が多いといわれている。 〈中 略〉
季節別には春が乳酸菌、夏が細菌、秋になると酵母菌、冬には糸状菌が多くなる(薄上秀男)といわれている。
新エネルギーの利用実績と目標
● 日本の1次エネルギー総供給に占める新エネルギーの割合は、1998年度(暫定値)で1.2%であるが、国の2010年度の目標は3.1%である。
1)新エネルギー(一次エネルギー) (単位:原油換算)
エネルギー分野
1998年度(暫定値)
2010年度目標
太陽光発電
3.4万kl
122万kl
太陽熱利用
91.3万kl
450万kl
風力発電
1.6万kl
12万kl
廃棄物発電
114.3万kl
662万kl
廃棄物熱利用
4.4万kl
14万kl
温度差エネルギー等
4.1万kl
58万kl
黒液・廃材その他
461万kl
592万kl
合計
(1次エネルギー総供給に占める割合)680万kl
(1.2%)1910万kl
(3.1%)
2)従来型エネルギーの新利用形態(広義の新エネルギー)利用形態
1998年度(暫定値)
2010年度目標
コージェネレーション
463万kW
1,002万kW
クリーンエネルギー自動車
3.9万台
365万台
燃料電池
1.3万kw
220万kw
出所:資源エネルギー庁:パンフレット(考えよう、日本のエネルギー)、(財)原子力発電技術機構(2001年3月)
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