百年の森を育てる - ニュース -

インタビュー・メッセージ2011年1月6日 00:00

林業の再生なくして地域の再生はない トビムシ 竹本代表取締役インタビュー

事業リスクをとって、「やれることをやれるやり方でやる」ことを決意
Q. 最初に、コンサルタント的な役割を果たされていた竹本さんやトビムシの他のメンバーの方々が、トビムシをつくられ、自ら事業リスクを取られる主体になられた経緯を教えていただけますか。


[トビムシ 代表取締役 竹本吉輝氏]

A. 私自身のことでいうと、もともとの専門は行政法だったんです。生まれ育ったのが横浜の鶴見という京浜工業地帯のド真ん中で、公害や健康被害が少なくなかった。そのため、隣町の、やはり公害に苦しんでいた川崎などを中心に、市民運動などが盛んでした。そういう町で育ったので、地域の特殊事情を汲んだ固有のルールをどうやって地域自ら決めていけるのか、ということに漠然と関心をもつようになりました。

そうした地域独自のルール化が必要とされ、ケースが増えていっているのが環境公害分野だったんですね。だから、行政法のなかの環境公害分野に関心があった。よく勘違いされるのですが、環境問題に関心があったから現在のようなキャリアを歩んでいる、というわけではないんです。地域独自のルール化、その法律論に関心があって、たまたま環境公害分野をやり、その研究過程において公害や環境問題を引き起こす社会背景に触れ、環境問題が大変だということに、どんどん引っ張られていったんです。結果、地域が独自にルール化を進めていくという話と、環境を持続可能なものにしていくという話しが、同じような比重で重要になっていきました。

そして、「環境」といった価値がどんどん毀損されていくトレンドがあるなかで、価値が毀損するのを防ぐ仕組みとして必要な法令整備の支援などをしてきました。けれども、「(これ以上価値を毀損するのを防ぐ仕組みとしての)法律をつくっていても埒が明かないな」と感じるようになり、発想を変えて、価値を創造していく仕組みをつくっていくことにしました。そのためには自ら事業を興すしかないという仮説のもと、アミタに合流したわけです。

私が、結果的に環境問題にもかかわるようになったのと同じように、トビムシも直接的に環境問題を手がけているわけではありません。トビムシの属するアミタグループでは、コンサルタント的に、地域再生など、いろいろと環境問題の解決を目指した事業のお手伝いをしていました。ただ、当り前ですが、どんな提案や支援も、実施組織体が採用、実行しなければ動かないということがあるわけです。

他方で、日本の森は、ここ10年(場所によっては、それ以上)手入れされずに放置されたままで、これからの3年~5年が、その経済的価値を取り戻すのに極めて重要な時期にあるということがありました。そこで、「やれることをやれるやり方でやる」ということを追求していこう、自分たちもリスクをとってやってしまおうと決断し、トビムシをつくったわけです。


[私たちの親や祖父母が子どもや孫のために植えたにもかかわらず、放置され日が入らない森]

トビムシの目的は、持続可能な地域社会を創ることです。日本で地域といったときの多くが中山間地域ですので、経済基盤を強めるのにメインとなる舞台は林業なんです。つまり、「林業の再生なくして地域の再生はない」状況下にあるため、トビムシは林業の再興を命題としてやっています。あくまでその結果として、森林再生につながり、更には地球温暖化防止につながるという話です。



木材量は、2年間で2,000立方メートルから12,000立方メートルへと6倍に拡大
Q. トビムシが2009年2月に誕生してから約1年半が経過しました。現在の西粟倉の状況、林業を通じた地域活性化は進んでいますか。「西粟倉村共有の森ファンド」が開始して1年以上が経過しましたが・・・

A. 林業を中心とした西粟倉村地域の活性化は、少しずつ進んでいるのではないかと思います。

今回の「共有の森事業」の前提として、小口化されてしまっている山林所有の集約化があります。複数年かけて1,500ヘクタールを取りまとめることを目標として掲げており、現在、500ヘクタール弱の集約化ができています。集約化により効率が上がり、木材の出荷量でみると、私たちが事業に関与し始めた頃の2,000立方メートルから、その6倍になる12,000立方メートルを出荷できる体制を整えつつあります


[集約化した森の施業状況を示す地図]

また、雇用の面でも成果があり、集約化を行える体制が整い、今後10年間の事業計画を立てることができたことから、村では、この2年間で約40人の新たな雇用を生むことができています。

こういう事実の積み重ねによって、集約化に協力してくれる山主さんも増えていくことになると思います。



森林組合と民間が組んで、リスクとリターンをシェアする西粟倉村モデル
Q. 仮に12,000立方メートルの出荷体制を整えられることになれば、「西粟倉村共有の森ファンド」では、約24,000立法メートルの木材を6,000円で新規の売り先に販売すると、林業機械のレンタル収入と合計して出資者の元本が返る予定ですので、大まかに半分程度の達成見込みがみえてきた、ということですね。事業が順調に進みすぎていて怖いくらいですね(笑)。もちろん色々あるとは思いますが、それでも事業が進んでいる理由を教えていただけますか。

(注:分配シミュレーションはこちらをご確認ください。なお、分配シミュレーションは、売上を保証するものでもなければ、出資者に対し、分配金額を保証するものでもありません。
https://www.securite.jp/fund/detail/145

A. 林業の問題点は何かを考えると、多くの森林組合に、林業が持続的な発展市場であるという意識が薄くなっていることがあげられます。この背景には、山主から施業委託される山林が減少トレンドにあるなかで、森林組合が中長期的な事業リスクや投資リスクをとることが難しくなっているということがあるわけです。

たとえば、1,000人の山主さんがいて、単位は抜きにして1,000の山林があったとします。昔は当たり前のように木材価格も上がっていたので、山主は、今はお金がかかっても中長期的には自分たちの利益になると考え、森林組合に山林の整備を委託します。そうすると森林組合は、その1,000というものを、向こう10~20年間にわたって受託できると考えていますから、雇用もできて機械も入れられるわけです。

ところが木材価格の減少などにより、1,000人の山主さんの中に儲からないと判断する人が出てくると、1,000あった山林は、800、400、300になっていきます。しかも、その減少の量も速度も正確には分からない。来年、いきなりゼロになるかもしれない。こういう不確実な中で、森林組合は「自前の施業リスク」は取り難いと判断するようになっています。

結果、森林組合は、自前の施業班をもたなくなり、補助金申請手続きだけをやったり、あるいは施業を外注したりすることで、リスクを取らないような組織になっていくわけです。

つまり、元の契約が取れるか取れないかという不確実性を払拭することが解決しなければいけない問題でした。いままでの林業では、こうした問題を、たとえば、境界線確定ができないだとか、不在山主の人たちも多いだとかといった問題があるからできませんよねというところで、思考停止していた、といっていいと思います。

ここを解決したのが、今回の長期森林管理契約という仕組みです。この契約があることによって、森林組合は新規雇用など、未来への投資ができるようになるわけです。

とはいえ、問題が解決したから、リスクが減ったから、「今すぐ森林組合が全部やってください」といってもできません。そこで、民間と森林組合がしっかりタッグを組んで、相互にリスクをシェアしながら、役割をシェアしながら、その代わり、利益というものもシェアしながらやっていく仕組みが必要じゃないですか、という仮説の下、実践しているのが西粟倉ですね。


[ファンドで購入した林業機械を森林組合で利用し、作業の効率化を進め木材の供給体制を構築]



価値がないとされてきたものに価値を見出し、林業再興を中心にした地域再生を実現
Q. 仰るとおりですね。リスクとリターンのシェアというのは、とても大切な考え方と思います。リターンという意味では、きちんと利益を上げていく必要があると思います。木材の出荷量も増え、順調に進んでいるようにも思いますが、今後の課題は何でしょうか。

A. 課題を考えていくと、森林組合でいえば、計画通り間伐のみを粛々とやっていけば、一定の補助金収入があり、そこから手数料をもらえるので、やっていけます。逆にいえば、間伐材を搬出して高く売ってというふうにならなくてもいいんですね。

ですから、マクロ的な課題としては、施業の効率化と流通(販売出口)のところの2つが大きいと思います。効率化については、まず第一に現時点では、高性能林業機械を入れる前提となる林道、作業道が入っていないこともあり、その機械化が進んでいない。そのため、効率的な施業ができていません。

もう1つは森からの搬出です。木材というのは原木のまま移動させる距離が短ければ短いほどコスト圧縮ができるので、効率的に材を出し、あまり移動させずに製材加工現場に、移送させるのが重要なのですが、そのような仕組みが整っていない林業地域がほとんどです。

もちろん最後は出口の話になると思います。ただ、この出口という話も、安定的に山から材を出せるようになり、きっちり流通に載せられてはじめて、競争力が出てくるんだと思います。量と品質、そして価格が安定すれば、ハウスメーカーさんを含め、大口顧客が使ってくれるようにもなってくると思います。

西粟倉では、集約化を進めることによって、10年間での最適施業態勢が整いましたし、ファンドを活用し、林業機械を導入することができた結果、施業効率化が進み、生産搬出できる木材を相当量増やすことができるようになってきています。

後は、とにかく結果を出すことですね。結果というのは、これまで材として出せなかった小径木のような、お金にならなかったものをお金にするということと、今まで売れていた普通の構造材、内装材を、より安定的に、適正な価格で販売していくということの2つです。特に、ファンドの分配原資となっているのは、トビムシが新規に開拓した売り先のものですから、前者はとても重要です。

価値のないものとされてきたものに価値を見出すことができていけば、本当に、林業再興を中心にした地域再生ができていくはずです。

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西粟倉村共有の森ファンドの詳細はこちら:
https://www.securite.jp/fund/detail/145
【ご留意事項】
当社が取り扱うファンドには、所定の取扱手数料(別途金融機関へのお振込手数料が必要となる場合があります。)がかかるほか、出資金の元本が割れる等のリスクがあります。
取扱手数料及びリスクはファンドによって異なりますので、詳細は各ファンドの匿名組合契約説明書をご確認ください。
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