百年の森を育てる - ニュース -
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インタビュー・メッセージ2010年12月15日 00:00
言葉が変わるということは、社会が変わったということ ワリバシカンパニー 池田取締役
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近づくワリバシのターニングポイント
Q. 国産間伐材を活用したワリバシの生産・販売を行うことで、林業の活性化、森林保全の促進を目指すワリバシカンパニーを7月の終わりに立ち上げられてから、約4ヶ月が経過しました。営業の状況はどうですか。
[WAREBASHIを世界共通語にすることを目指す ワリバシカンパニー 池田 取締役]
A. 飲食店の反応は思ったよりもいい。「いけるな」という感触はあります。皆さん環境意識は高いので、興味は示してくださいます。議論になるのは、コスト。たとえば、「プラスチック箸に変えてしまったばかりなので、ちょっと待って欲しい」と言われることがあります。ただ、プラスチック箸の利用にはランニングコストもかかるし、ワリバシは森林保全に直接的に貢献できるというメリットもあるはずなので、ここをお話している。ターニングポイントが近づいてきていると感じています。
日本の森をよくするために日本の箸を使う
Q. いまプラスチック箸の利用にはランニングコストがかかるということと、ワリバシの利用が森林保全に貢献するとありました。もう少し具体的に教えていただけますか。
A. 大量の箸を必要としている外食チェーンがプラスチック箸に変えた背景には、中国産のものを大量に買い付け続けるのが、先行き不透明になってきたということがあります。もう1つは、割箸ですと調達費がかかってきてしまうことがありますね。プラスチック箸は1回買ってしまえば繰り返し使えますから。
ただ、プラスチック箸は、維持管理にコストがかかります。ちゃんと高温煮沸をしないと菌が残るとも言われています。つまり、問題ないように使うための食洗器や、ランニングコストも必要で、私たちの試算では、3円程度/日かかっています。つまり、1日のランニングコストでは、1膳を買うよりも多くかかってしまいます。私たちはワリバシを2.5円/膳で販売しようと思っていますので、経済的にも優位性があると思っています。
ワリバシカンパニーが生産・販売するワリバシは日本の森の木を使います。日本で使われている割箸の95%は中国から入ってきているものですが、これは、中国で伐られているわけではないと言われています。シベリアか東南アジアで伐った木を中国に持っていって箸になっていると。それと、箸の匂いを嗅いでもらうと分かると思うのですが、漂白剤を使っているので、「つーん」と臭いんですよ。
他方で、使われていない木が日本にはあるわけです。使われないがゆえに伐られていない木が日本にはあるんです。少しでも使われれば、木は伐られて、森に光が差して、ちゃんとCO2を吸ってくれる森になります。年間250億膳が、ほとんど中国から来ているなかで、日本の森をよくするために、日本の箸を使いましょうということですね。
[既に実施した割箸の回収プロジェクトでは手応えあり]
それと、利用したワリバシは回収することを考えています。回収のために、飲食店に別途コストを負担していただくことはありません。使い終わったものを、もれなく回収させていただいて、オガコにします。カビが湧かないかと聞かれましたたが、夏の間、使用済みの国産材割箸を倉庫に1ヶ月置いておいたが、何の問題も発生しませんでした。
今後、第3者機関による検証は行っていきたいと思っていますが、まず問題ないだろうと思っています。その後、オガコにして堆肥にしていきたい。つまり、土に還るということですね。ペレット化することは、現時点でも問題ないので、すぐにできます。
間伐をしないと日本の森は死んでいくと聞いてショックを受けた
Q. 壮大な話ですね。木からワリバシを作って、飲食店が使ったものを回収し、オガコにして、堆肥(土)にするというのは!これだけの仕組みを、どのように考えられたのですか。
A. そうですね。ちょっと長いのですが、自分と割箸との関係を、ちょっとお話したいと思います。
博報堂に勤めていた2001年に「広告」という雑誌をやっていました。雑誌そのものがプロジェクトを生み出すインキュベーターになろうという考え方でした。いわゆる世の中情報的なものを一切なくして、すべてオリジナルのプロジェクトの活動報告だけでできている雑誌です。そういうなかで、アースデイマネーとか、春の小川を再生させようというプロジェクトといったものが生まれました。
雑誌は、社会を変えていくためのプロジェクトというふうに称して、「フューチャー・ソーシャル・デザイン」というコンセプトを打ち出していて--当時、どうも日本で一番最初に、「ソーシャル・デザイン」という言葉を利用したそうなのですけれども(笑)――「自分がエコをやっている」という意識は全然なかったんですね。当時、一番、興味をもっていたのは、地域通貨でした。
まったくなかったんだけど、これからプロジェクトをやっていく雑誌を立ち上げることをやってきいきますということでお披露目した号が、環境系の人たちの目にとまりました。それが、「アースデイ」というイベント、4月22日が世界的に「アースデイ」と呼ばれている日なんですね。日本でも、代々木公園でこのイベントを主催している人たちから、「この雑誌はよい」とお褒めの声をいただきました。
たまたま坂本龍一さんから――ニューヨーク在住ですけれども――ちょうど日本に行くんだと連絡があった。坂本さんが、2000年のニューヨークのアースデイを見て、非常に感銘を受けていたんですね。それで、東京のアースデイを一緒に行くことになって、いろんなものを見ているなかで、そのときの1つの主張が「日本の森を守ろう」だった。
自分が知っていたことは、せいぜいアマゾンの熱帯雨林が消えているから、森を増やさなきゃいけないという程度でした。世界的にはそうだが、日本では、伐られないといけないんですよ、間伐というものをやっていかないと、死んでしまうんですよ、というのを初めて聞いて、大変ショックを受けました。
そのときに、森林のNGOをやっているある人から割箸の話をきました。たとえば、割箸というものを1つとってみても、国内の自給率は5%にも満たないと。箸は日本の文化のはずなのに、決して日本では作られていないと。ほとんど95%が中国から入ってきていると。とはいえ、当時は中国の箸は1円/膳なのに、日本のは5円/膳。
そうすると、さすがに、どんなにいい話でも、誰も見向きもしてくれないだろうと。だったら、箸袋に広告を入れてはどうかと話になった。広告主の協力によって、価格を下げるわけですね。「中国のものに比べて、少しでも競争ができる価格にできませんか、広告会社の池田さん」と、とある方から、ご相談を受けたのです。
そのとき、雑誌のコンセプトが社会変革を起こすようなプロジェクトを立ち上げることだったので、さっそくやってみましょうということで始まったのが「アドバシ」です。広告の力で、日本の森を変えていこうと。
その後、2003年から打ち水大作戦を始めました。みんなでいっせいに打ち水をして、真夏の温度を下げようという取組ですね。打ち水大作戦が、国産の木材利用に道を開いてくれました。
打ち水が単に気温を下げるというだけではなく、日本のよき文化を取り戻すものでもありたいと考えていまして、江戸情緒を引き立てるものとして、桶やひしゃくという道具を国産の木で作りました。2005年の「愛・地球博」で、大々的にやることになりました。私が桶のデザインをして、円ではなく八角形のカタチにしたことで、量産もできるようになって、今では各地の打ち水大作戦イベントの会場で利用されるようになりました。
[国産間伐材を活用した打ち水用の桶]
それで国産材の木を使うということにグッと興味をもちまして、港区から地球温暖化対策のために都心のわれわれになにができるかと問われたときに、森林整備をしてCO2吸収に貢献して、なおかつ整備の過程で出てくる間伐材を使うことが最善の策であるということを話した。最初は、なかなか理解を得られなかったのだけれども、だんだんわかってもらって、あきる野に「みなと区民の森」(※平成19年に港区はあきる野市の森を借り、整備する活動を始めた。ご参考:
http://www.city.minato.tokyo.jp/kurasi/kankyo/kangaeru/moridukuri/index.html)ができるに至った。
割箸からワリバシへ ~言葉が変わることは社会が変わること~
エコプラザでは、その区民の森の木を使った割箸を作って、配布していました。それに目をつけたのが、ワリバシカンパニーの発起人の1人である藤原孝史。2009年1月に初めてエコプラザに来られたときに、たまたま置いてあった割箸を見て、「これだ」と思ったそうです。畜産農家は、いまオガコが足らずに困っているそうです。
2008年から外材が高騰してしまって、オガコが手に入らなくなってしまったわけです。牛や豚の寝床をつくるときに、オガコをつかって、糞尿を混ぜて、いわゆる動物性堆肥を作るわけですが、難しくなっていると。昔はただ同然だったのが、3,000円/立方メートルの高値になったというのです。
だったら、お箸をくだいて、オガコにしにしたらいいじゃないかと。藤原の目の色が変わってきました。そもそも、割箸を作るところから始めたらいいんじゃないかと。
山側の事情を考えると、若い木から間伐をしていかないといけない。若くて細い木だから、切り捨てられている。「この木を何とかできれば、割箸が作れるのではないか」と、藤原は主張しました。これまで日本では背板を使って割箸を作ってきたので、細い間伐材から作られた前例はない。
だったら、自分たちでやるしかないじゃないのかと。そこで、藤原が伝説の割箸の製造技師・尾崎と会った。尾崎は戦後の日本の割箸工場の多くに携わっています。一線を退いていた尾崎を、藤原が訪問した。
尾崎は「できない」と思ったが、プライドもあるので、「できない」と答えるのは嫌だからと、まずはやってみた。知り合いの吉野の工場の一角を借りてやってみたところ、できてしまった(笑)。ここから、今回のプロジェクトがスタートしたわけです。
[これまで価値がないとされ放置されてきた細い間伐材を利用した国産間伐材ワリバシ]
Q. 長かったですが、まさに、今回のプロジェクトにつながる10年間だったわけですね。では、今後、ワリバシカンパニーが活動の結果、社会がどんなふうになったらよいなと思われているか教えていただけますか。
A. ワリバシカンパニーは、各自が専門性を持ち寄って平等に会社をやっていくという意味で「ワリカン」なんですが、当然わたしには、これまでコピーライターとしてやってきたという自負もあります。ですので、言葉の文化に一石を投じていきたいと思います。
具体的には、「割箸」がはやく「ワリバシ」にならないかなとか、英語で書くときも「WAREBASHI」にならないかなと思っています。あと、「橋渡し」を「箸渡し」にしたい。「お客様の箸渡し」とかね。こう書いても、テストで○(マル)がつくようにしたいですね。
言葉が変わるということは、社会が変わったということだと思います。
ラジオで聞きたいという方はこちら:
池田正昭 「ワリバシとともに歩んではや10年」(1/6)~ソーシャルデザインからアドバシへ~
池田正昭 「ワリバシとともに歩んではや10年」(2/6)~水→ 桶→木遣い→やっぱり箸~
池田正昭 「ワリバシとともに歩んではや10年」(3/6)~役者はそろった!~
池田正昭 「ワリバシとともに歩んではや10年」(4/6)~プラバシにも3円かかります。~
池田正昭 「ワリバシとともに歩んではや10年」(5/6)~「打水」を「打ち水」にした男~
池田正昭 「ワリバシとともに歩んではや10年」(6/6)~今はボランチ、いずれゴール前に!~
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ワリバシファンドの詳細はこちら:
https://www.securite.jp/fund/detail/149