インタビューシリーズ「私のブレンド・ファイナンス」。第1回目のゲスト、下山俊一さんは、根っからのインパクト投資家。出資にあたり社会的リターンの意義を強く打ち出すセキュリテの姿勢に心から共感してくださっています。
1974年生まれ。都内で不動産鑑定事務所を経営。アクティブ投信中心に「いい会社」への長期投資を実践。9つのNPO団体を継続寄付でサポート中。好きな言葉は「意志あるお金は社会を変える。」
ブログ「セルフ・リライアンスという生き方」
2019年のG20(20ヶ国・地域)大阪首脳宣言にブレンド・ファイナンスという言葉が盛り込まれました。ブレンド・ファイナンスとは、個人と法人、官と民など、投資に期待する動機が異なる多様な立場から資金を集めることで、これまで必要な資金を調達できなかった人々が調達でき、投資できなかった人が出資できるようになることを目指す手法です。ミュージックセキュリティーズは、ブレンド・ファイナンスの事例を積み上げ、2025年開催の大阪・関西万博で、TEAM EXPO 2025 プロジェクトパートナーとして、事例を紹介したいと考えていて、これから数年の活動のキーワードになる言葉です。
それにちなんで、今回始めるインタビューシリーズのタイトルを、「私のブレンド・ファイナンス」と名付けました。ここでは、当社のファンの方々と、和やかに、ご自身のポートフォリオやミュージックセキュリティーズへの期待などについてお話いただきます。
第1回目のゲストは、不動産鑑定士で個人投資家でもいらっしゃる下山俊一さんにお話を伺います。下山さんの投資ポートフォリオはどのようなものでしょうか?
私の投資ポートフォリオの基本は投資信託が8割、個別株が1割、残りがインパクト投資や投資型クラウドファンディングとなっています。また、事業の年間収益の1%はNPO(非営利団体)などに寄付しています。
投資を続ける中で、クラウドファンディングやインパクト投資に関心が出てきて、お金を少しずつ振り向けてきました、その結果、インパクト投資の比率はだんだん増えています。
自らの資産運用と投資のブレンドについての考えは、どのように変遷してきたのか、さらに詳しく教えてください。
20代のころは、FXや個別株のトレードで儲けてやろうと思ったこともあったのですが、なかなかうまくいきませんでした。リーマンショックで大きく損失が出たこともあり、長期でコツコツ資産形成するのが自分には向いていると思い、10年くらい前からインデックス投信の積み立てを始めました。その後、徐々にアクティブ投信に比重を移していき、今は、アクティブ投信ばかりになりました。
その理由は、自分の結論として、事業を通じて持続的に社会に価値を提供するいい会社に長期で投資をすれば、個人のリターンも高まるし、社会にもプラスになることがわかってきたからです。鎌倉投信、コモンズ投信、ひふみ投信など独立系のアクティブファンドに投資する中で、そう思うようになりました。インデックス投信のようにただ全ての上場企業に分散投資するのではないんです。ダメな会社、価値を生まない会社もあると思うからです。まんべんなく投資するんじゃなくて、いい会社をしっかり選ぶ投信に投資したいと強く思うようになりました。
また、顔が見えるファンドというか、どんな人達が運用し、どんな会社にどんな理由で投資しているのかが見えるファンドや運用会社にお金を託したいと思うようになりました。その延長にセキュリテもあります。
インパクト投資を始めたのは5年くらい前だと思います。まだ、セキュリテが自らのことをインパクト投資のプラットフォームとは名乗っていなかった頃です。機関投資家の世界で、ようやく、その用語が出始めたころではないでしょうか。
インパクト投資の内訳はどうなっていますか?
インパクト投資の元祖であるセキュリテや、海外に強いクラウドクレジットなどの投資型クラウドファンディングと、ベイリー・ギフォードのインパクト投資ファンドのような上場企業対象投信からなっています。
求めているものは、異なりますか?
ベイリー・ギフォードのような投信は、アクティブファンドなので、長い目で見ればインデックスを上回るリターンを得られると考えています。
一方、セキュリテには、そこまで高い経済的リターンは求めていません。
セキュリテには、地域の課題をビジネスで解決している中小の事業者など、社会性が高い一方でなかなかお金の届きにくいところにお金を届ける意義があると思っています。かつ、(上場株投信とは異なり)直接お金が事業者に届くところが大きく違うと思います。
なぜ求めるものが異なってくるのでしょうか。
セキュリテの場合、出資先が非上場企業ということがひとつでしょう。そして、ミュージックセキュリティーズが、経済的なリターンだけでなく、社会的なリターンを前面に打ち出していることです。上場企業への投資では、株価が日々動きますし、企業側も投資家側もまだまだ投資のリターン=(短期的な)経済的リターンという考え方が主流です。ただ、ESG投資のような考え方も広がってきたように、上場企業への投資においても持続可能性や社会性の視点が組み込まれていく方向にはあると思います。
セキュリテを元祖インパクト投資と呼んでくださったことをうれしく思いますね。
インパクト投資に携わってきた歴史が長いです。初期の頃から、経済的価値と社会的価値を両立するインパクト投資を打ち出していたし、まだインパクト投資という言葉がない頃から、被災地応援ファンドなど、明らかに社会性の高いファンドを組成していました。そういう意味で先駆けだと思います。
これまで私は、「SABAR鯖街道よっぱらいサバファンド」、「クルミドコーヒーファンド」、「LIPミャンマーMJI貧困削減ファンド」など、20本ほどのファンドに投資してきました。あと印象に残っているのは、「広島県がん検診推進SIBファンド」でしょうか。ソーシャルインパクトボンドを個人向けに組成したのが、おそらく日本では初めてで画期的でした。国内モノで海外モノでも、こだわりはなく、事業者の理念や事業の内容に共感できるものを購入させてもらっています。
広島県がん検診推進SIBファンド
経済的リターンは、得ていらっしゃいますか?
トントンだと思います。途中で償還されてしまったものもありますし、大幅にプラスリターンということはないと思います。特典もあるので損もしてないと思いますが、儲かった云々というものではないので、自分としては満足しています。
経済的リターンがトントンだとしますと、お金を投じて何を得ている感覚なのでしょうか?
今、運用中のミャンマーのマイクロファイナンスファンド(「LIPミャンマーMJI貧困削減ファンド」)などがわかりやすいと思いますが、出資したお金が、地域の個人や中小企業の人たちにわたり、その資金を元に人々がビジネスを行い、雇用が生まれ、地域を豊かにして、また戻ってくるという、お金の循環と社会的なリターンを感じられることです。自分のお金が循環しながら社会を豊かにしている実感が得られるのが好きです。
自らが金融機能を果たしていることがわかるということでしょうか。
そうかもしれません。上場企業への投資にも、もちろん金融機能はあるんですが、なかなか見えにくいんですよね。表面的には、上場株投資をしても、そのお金は株を売った人にわたるだけで、直接(企業に)お金を届けることはできませんからね。
2020年は、SDGsもクラウドファンディングもとても身近になりました。 下山さんは、玉石混交入り混じる中で、真贋の見極めが重要だとおっしゃっています。どういうことなのでしょうか。
「SDGsウォッシュ」という言葉がありますが、「SDGsやっています」という標語を掲げているだけで、中身の伴わない事業や商品が増えているように感じますし、そのような見せかけのビジネスに安易にお金が集まってしまう傾向はよくないと思っています。SDGsを単なるマーケティングのためのツールにしていないか、本当にその企業が社会的なインパクトや持続可能性を真摯に追求しているかどうかを見極めないといけないと思います。
また、「クラウドファンディング」という言葉は、使われ方の幅が広すぎるので、誤解を招きますよね。純粋な寄付型のクラウドファンディングから、完全に経済的リターン追求型の高利回りの不動産ファンドまであるので、すべてをクラウドファンディングという言葉でくくっていいのかどうかは疑問です。
それでは、真のインパクト投資かどうか、下山さん流の見極め術を教えてください。
投資型のクラウドファンディングの場合、比較的わかりやすいと思います。
セキュリテのホームページと、利回り追求型の事業者のページを見比べれば一目瞭然というか。とにかく高い利回りをアピールしているだけのところは、インパクト投資にはなりえないですね。
一方、上場企業の投信の場合は、見極めが難しいですよね。どんな会社でも事業を通じて社会に貢献しているし、社会的価値はあります。自分の場合、受益者へのレポートなどを通して、運用会社やファンドマネージャーの考え方を継続的に確認するようにしています。そして、本当に長期的視点で社会課題の解決を追求しているか、投資によるインパクトをどう評価し、開示しているかなどをチェックしています。
セキュリテはどうでしょうか?
社会的インパクト投資のプラットフォームであることを明確に掲げています。高い利回りを追求しない一方、事業者への共感や地域への貢献など目に見えない価値を打ち出しています。だから逆にお金が集まりにくいという面があるかもしれませんが、そこがインパクト投資だと思うので、貫いてほしいと思います。
今後もしできるのであれば、貧困対策やNPOへの出資など、より社会性に寄ったファンドを出しても面白いと思います。
たしかに、お酒や名産品などのファンドは、お金が集まりやすいと思います。その地域でないと入手できないような特典が付いてくるからです。ただ、私は、そういうファンドにはあまり出資していません。マイクロファイナンスや、ソーシャルインパクトボンドなど、モノの特典がなくても、社会性に振り切ったファンドがもっと増えるといいですね。もちろん、特典があるファンドには、社会性がないと申し上げているわけではありませんよ。
2020年は株高でしたが、コロナショックで職を失った方も少なくありません。また、事業会社にもコロナ禍で大変な状況であった会社と巣ごもり需要の恩恵を受けた企業に二極化しました。こんな状況下での社会的インパクト投資についてどう考えたらいいでしょうか?
貧困や格差、環境問題、地域の衰退など多くの社会課題は、行政の力だけでは解決するのがなかなか難しい状況です。だからこそ、民間のお金の流れを変えるインパクト投資は大事ですし、今後主流になっていってほしいです。
その意味でもセキュリテの役割は大きいと思います。機関投資家や財団などだけではなく、やっぱり個人がインパクト投資に参加することが大事だと考えています。というのも、年金も保険も、最終的な資金の出し手は個人です。個人のお金の使い方が変わらない限り、金融を通じて社会を変えることはできません。 まだまだ道は遠いですが、セキュリテの投資家が増えていくことで、「個人によるインパクト投資」が広がっていくことを願います。また、寄付ではなく投資だから持続性があると思うのです。投資は、お金をあげてしまって終わりではなくて、お金の受け手がビジネスによって価値を生み出し、その一部が戻ってきて、また再投資されるという持続的な循環プロセスです。その循環の中で社会的インパクトも生まれます。なので、どんどん賛同者が増えてほしいです。
それでは寄付をする余力のない方にインパクト投資を勧めてみてもいいですね。
それはあるかもしれませんね。特に、20代30代の若い世代は、ESGやSDGsなどの考え方に共感している人も多いと感じます。目先の利益だけを追求していたら、社会全体が将来もたないと、漠然と感じているのでしょう。そういう若い層にインパクト投資は響くのではないでしょうか。
ブログで「寄付は癒される」と書かれていましたが?
今、9つのNPO団体に寄付を続けていますが、経験からそうだと思いますね。そして、寄付とインパクト投資は、それぞれに適した分野があるという違いだけで、自分の中では地続きにあるお金の使い方です。寄付もインパクト投資も、自分の出したお金が誰かの役に立ち、社会をよくすることにつながっているという感覚は共通しています。それは言い換えれば「精神的なリターン」ですね。そのような感覚はきっと誰にとってもうれしいはずです。
注)
ブレンド・ファイナンスとは
一般的に、投融資に加え、寄付金・公的機関等の補助金や助成金・国際金融機関からの調達コストの低い資金も併用する資金調達の手法をいいます。当社では、個人からの共感に基づく出資やインパクト投資も組み合わせることで、社会的課題解決に貢献する事業に対して必要な資金を提供することが可能になると考えています。(ミュージックセキュリティーズ株式会社 セキュリテ事業部)
インパクト投資とは
経済的なリターンを求めるだけではなく、それぞれの地域で抱える課題や貧困や環境などの社会的な課題に対して皆様からの出資を通じて解決しようとする、経済的な価値と社会的な価値の両方を追求する新しい投資の仕組みです。
日本の中小企業が元気になるようセキュリテ出資を続けたい
温かい消費を通じて共感資本社会を作りたい
地方の企業にも直接金融を利用した経営の醍醐味を伝えたい
ウニを通じて「利益・環境・社会貢献」の両立を目指す
私たちの「うまいッ!」を伝えたい
地方創生や「ファイナンスの地産地消」に共に取り組みたい
私たちにできることを やっぺー
セキュリテは、授業料が返ってくる学校
別腹の玉手箱を持つイメージで投資を
自分のお金が循環しながら社会を豊かにしている実感