旧セキュリテニュース
2015年2月5日 15:30
「そうよ、全部飲み干したら出かけるの。」
彼女はそう言って、昨日までの旅先で手に入れたピッピーみたいなロングスカートで
踊ってるみたいに前を歩いた。
☆
僕らはスーツケースを駅に預け教会を目指した。
真っ白な漆喰の壁に囲まれた祭壇には、
南仏の青空と太陽と木々を砕いて出来たようなステンドグラスから優しい光が射し込んでいた。
静かに深呼吸をして祭壇の方を眺めると、
顔の描かれていない聖ドミンゴが無表情にこちらを眺めている様に見えた。
81歳のマティスは何を思ってこの礼拝堂を作ったのだろうと
ぼんやり考えながら隣りの椅子に座る彼女を眺めると、
蝶の羽根みたいな襟の前で手を組み何かを祈っていた。
教会を後にして、彼女に何をそんなに祈っていたのかと尋ねると、
南仏の牡蠣は世界一という店主に生牡蠣と冷えた白ワインをご馳走になり、
僕らは駅に向かった。
港に着くと、僕らはまず適当な椅子とテーブルを見つけ、
そこにトリコロールのスカートをテーブルクロス代わりに掛け、
その上に買ってきた食材を並べた。
そして彼女はスーツケース丁寧に横に倒して、中を開けた。
中には数えきれないくらいのボトルが
色々な地名の描かれたスカーフに巻かれて入っていた。
「さぁ飲みましょ。」
そう言うと彼女はその中から「PARIS」と描いてあるスカーフをボトルから脱がせ、
ペリエジュエを取り出し、コルクを勢い良く飛ばしてグラスに注いだ。
「旅立ちに。」
僕は意味が分からず聞き返そうとしたけど、
彼女はグラスをカチンと鳴らし、飲みはじめた。
MADRID(スペイン産の赤), ROME(ランブルスコ), LE CAIRE(モロッコ産の赤ワイン) と、
僕らは地名の描かれたスカーフをボトルから奪い取り次々と飲み続けた。
SINGAPOREのボトルの中には南国の花びらが詰まっていて、
彼女はそれをテーブルの上にきれいに敷き詰め、
OSLOのボトルの中にはアンティークの布が入っていたので、僕は彼女の首元にそっと巻いた。
僕らはだいぶ酔っぱらい、今までした旅の話しと、これからの旅の話しをした。
彼女は紙の上に大陸ごとに色を変えて描き、
その世界地図に世界旅行の計画を書きはじめた。
PARISからTGVに乗りROMEに行ってパスタを食べた僕らは、
そこからMADRIDに入りファドを聴いて、船でアフリカ大陸に入り、
LE CAIRE(カイロ)から車をレンタルしてLE CAP (ケープタウン)の港でトノ(!)を受け取り、
3人でBUENOS AIRES行きの船に乗込んで、、、
丁度同じタイミングで、BUENOS AIRESと描いてあるスカーフを
ボトルから外しコルクを開けた。
何枚かのスカーフは風に吹かれ海の上でゆらゆらと揺れていて、
スーツケースは空になっていた。
最後の一本となったアルゼンチン産の赤ワインは、
南の太陽みたいに力強く重く、僕の胃の中に落ちていった。
僕らは何も話さず海の先の方を見ながら飲んだ。
「お別れしましょう。」
そう言って彼女は最後の乾杯をして僕に微笑んだ。
あたりはうっすらと明るくなってきていた。
僕は持ってきたインディゴ染めの麻のコートを彼女の背中にかけた。
彼女の背中は小刻みに震えていた。
ボブディランが歌う様に、その答えは風にふかれていて、僕は何も言えなかった。
彼女はそのまま立ち上がり、空になったスーツケースを抱えて駅に向かって歩いていった。
☆
目を覚ますと、港には沢山の観光客や釣り人で賑わっていた。
僕は目についたカフェでエスプレッソを頼み、飲みながら昨日の事を思い返してみた。
カフェインの刺激だけでは良いアイディアが浮かばなかったので、
僕はあてもなく街をさまよい、気がついた時には昨日の教会の前に立っていた。
一日ぶりの再会だと言うのに、聖ドミンゴは相変わらず表情を崩さず一点を見つめていた。
慰められるよりはマシだと感謝して、昨日の彼女と同じ場所に座り、
同じ様に目を閉じ手を合わせてみた。
目を開けると足元に小さく折り畳まれた紙切れを見つけた。
僕はそれを手に取り開けてみた。
彼女の使っている手帳から破られた紙に、大まかに旅の順序と共に『 Bon Voyage ○○ ! 』
と、僕の名前が書かれていた。
「本当に旅に出たんだ、」
僕はようやく夢じゃないと言う事を受け入れ、駅へと走り出した。
☆
Words : OKAMOTO JUN
2015 Spring Summer Collection
[Voyage]
☆
「まるで世界一周旅行にでも行くみたいだね。」
僕はそう言いって、大きなスーツケースを彼女から受け取った。
「そうよ、全部飲み干したら出かけるの。」
彼女はそう言って、昨日までの旅先で手に入れたピッピーみたいなロングスカートで
踊ってるみたいに前を歩いた。
☆
僕らはスーツケースを駅に預け教会を目指した。
真っ白な漆喰の壁に囲まれた祭壇には、
南仏の青空と太陽と木々を砕いて出来たようなステンドグラスから優しい光が射し込んでいた。
静かに深呼吸をして祭壇の方を眺めると、
顔の描かれていない聖ドミンゴが無表情にこちらを眺めている様に見えた。
81歳のマティスは何を思ってこの礼拝堂を作ったのだろうと
ぼんやり考えながら隣りの椅子に座る彼女を眺めると、
蝶の羽根みたいな襟の前で手を組み何かを祈っていた。
教会を後にして、彼女に何をそんなに祈っていたのかと尋ねると、
「旅の報告をしていたの、あなたの分もね、」
僕らの旅は今まさに順調に進んでいるから大丈夫だと言うと、
彼女はニコリと微笑み、
目の前に見えた魚屋に走っていった。
彼女はニコリと微笑み、
目の前に見えた魚屋に走っていった。
南仏の牡蠣は世界一という店主に生牡蠣と冷えた白ワインをご馳走になり、
僕らは駅に向かった。
港に着くと、僕らはまず適当な椅子とテーブルを見つけ、
そこにトリコロールのスカートをテーブルクロス代わりに掛け、
その上に買ってきた食材を並べた。
そして彼女はスーツケース丁寧に横に倒して、中を開けた。
中には数えきれないくらいのボトルが
色々な地名の描かれたスカーフに巻かれて入っていた。
「さぁ飲みましょ。」
そう言うと彼女はその中から「PARIS」と描いてあるスカーフをボトルから脱がせ、
ペリエジュエを取り出し、コルクを勢い良く飛ばしてグラスに注いだ。
「旅立ちに。」
僕は意味が分からず聞き返そうとしたけど、
彼女はグラスをカチンと鳴らし、飲みはじめた。
MADRID(スペイン産の赤), ROME(ランブルスコ), LE CAIRE(モロッコ産の赤ワイン) と、
僕らは地名の描かれたスカーフをボトルから奪い取り次々と飲み続けた。
SINGAPOREのボトルの中には南国の花びらが詰まっていて、
彼女はそれをテーブルの上にきれいに敷き詰め、
OSLOのボトルの中にはアンティークの布が入っていたので、僕は彼女の首元にそっと巻いた。
僕らはだいぶ酔っぱらい、今までした旅の話しと、これからの旅の話しをした。
彼女は紙の上に大陸ごとに色を変えて描き、
その世界地図に世界旅行の計画を書きはじめた。
PARISからTGVに乗りROMEに行ってパスタを食べた僕らは、
そこからMADRIDに入りファドを聴いて、船でアフリカ大陸に入り、
LE CAIRE(カイロ)から車をレンタルしてLE CAP (ケープタウン)の港でトノ(!)を受け取り、
3人でBUENOS AIRES行きの船に乗込んで、、、
丁度同じタイミングで、BUENOS AIRESと描いてあるスカーフを
ボトルから外しコルクを開けた。
何枚かのスカーフは風に吹かれ海の上でゆらゆらと揺れていて、
スーツケースは空になっていた。
最後の一本となったアルゼンチン産の赤ワインは、
南の太陽みたいに力強く重く、僕の胃の中に落ちていった。
僕らは何も話さず海の先の方を見ながら飲んだ。
水平線の下では太陽が身を乗り出す準備をしていた。
「お別れしましょう。」
そう言って彼女は最後の乾杯をして僕に微笑んだ。
(彼女のグラスの中にはもう何も入ってなかった。)
あたりはうっすらと明るくなってきていた。
僕は持ってきたインディゴ染めの麻のコートを彼女の背中にかけた。
彼女の背中は小刻みに震えていた。
ボブディランが歌う様に、その答えは風にふかれていて、僕は何も言えなかった。
彼女はそのまま立ち上がり、空になったスーツケースを抱えて駅に向かって歩いていった。
☆
目を覚ますと、港には沢山の観光客や釣り人で賑わっていた。
僕は目についたカフェでエスプレッソを頼み、飲みながら昨日の事を思い返してみた。
カフェインの刺激だけでは良いアイディアが浮かばなかったので、
僕はあてもなく街をさまよい、気がついた時には昨日の教会の前に立っていた。
一日ぶりの再会だと言うのに、聖ドミンゴは相変わらず表情を崩さず一点を見つめていた。
慰められるよりはマシだと感謝して、昨日の彼女と同じ場所に座り、
同じ様に目を閉じ手を合わせてみた。
目を開けると足元に小さく折り畳まれた紙切れを見つけた。
僕はそれを手に取り開けてみた。
彼女の使っている手帳から破られた紙に、大まかに旅の順序と共に『 Bon Voyage ○○ ! 』
と、僕の名前が書かれていた。
「本当に旅に出たんだ、」
僕はようやく夢じゃないと言う事を受け入れ、駅へと走り出した。
☆
Words : OKAMOTO JUN
☆
2015 / 1 / 30 fri start
▼JUN OKAOTO DAIKANYAMA STORE▼
東京都渋谷区代官山町12-3
junokamoto.dky@gmail.com
03-6455-3466
2012年日本初ファッションファンド「FIGHT FASHION FUND by PARCO」の第1号としてJUN OKAMOTOファンドを立上げ、シンガポールでのファッションショー、渋谷PARCOでの限定ショップや、代官山での路面店のオープンを果たしました。生地や型を自分で選べるセミオーダーも取り入れるなど、周りと同じにならない個性を活かすファッションを提供しています。今回更なるブランド発展を目指し、開発費等のためファンドを募集しております。
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